ゼミ選考書類1:好きなことを原稿用紙10枚以内

中澤ゼミの選考書類のメインは、志望学生に「原稿用紙10枚以内で、好きなことをなんでも書いてもらう」という課題である。

なぜこのような課題を義務付けているかというと、理由は単純で、私が学部生だったころ、尊敬する先生が同じ課題を出していたため、それを踏襲している。

経済学部は3年生になると専門のゼミが始まる。私は学生時代、ゼミ選びに非常に悩んだ。当時の私はマクロ経済学が大好きで、そうなると選択肢は2つしかなかった。岩井克人先生か吉川洋先生である。当時、駒場でマクロ経済学を教えていたのはこの二人だけで、毎年交代で経済学部2年生の「マクロ経済学」を担当していた。私のときは、たまたま岩井先生の授業の番であった。

衝撃を受けたのは、その授業である。髪を振り乱しながら、いわゆる天才にありがちな、脳に口が追い付かないような勢いで教え、しかし内容は非常に平易な言語に変換されたその姿に、圧倒されるとともに、たまらなく惹かれた。自分が見ている世界と、彼が見ている世界は、全く違うのだろうと思った。

岩井先生は、吉川先生のマクロ経済学の教科書を授業の教科書として指定していたため、授業中に先生の説明を聞きながら、授業の前後には予復習で教科書が書き込みで真っ黒になった。私は本に書き込みながら理解するのが好きで、世界史や日本史の教科書もすこぶる汚かった。

どちらのゼミにしようか悩んだが、当時、私のテニスサークルの先輩が偶然吉川ゼミに所属しており、吉川ゼミを勧められたことから、最初は吉川ゼミに行こうと思って、志望動機などの応募書類を書き上げた。

しかし、これも偶然なのだが、その直後、3年生の最初の学期に開講された岩井先生の「貨幣・法・資本主義」という授業の初回に、たまたま出席した。この偶然が私の運命を変えた。髪を振り乱しながら、早口で、必死に高度な内容を平易な言葉で説明するその姿を見て、やはりこの先生はとても面白い、この先生についていこうと思い、その授業中に岩井先生のゼミへの応募書類を書くことを決意した。20年近く経った今でも、大教室で私が決断したその瞬間を、はっきりと覚えている。

困ったことに、岩井ゼミの書類の締め切りは、なんと翌日であった。募集要項を確認すると、「原稿用紙10枚以内で好きなことを書け」という課題が課されていた。「以内」とは書いてあるが、分量は大いに越したことはないのだろうと思った。原稿用紙10枚はそれなりの分量なので、本気で自分が思っていることでなければ、とても書き切れない。

そこで、経済学とはまったく関係ないが、その当時自分が考えていた、「自分は生物学的には生きているが、人としては本気で生きておらず、死んでいるのではないか」という感覚について、当時読んでいた村上春樹の小説と絡めて一晩で書きあげた。

応募者は定員より多かったが、運よく合格することができた。後から先生に聞いた話によると、岩井先生は成績表などは一切提出させないし、そもそも読まないらしい。それでもこの方法で優秀な学生は十分に見分けられるし、実際うまくいっている、とのことであった。

たしかに、ゼミ生はその後、大学教員、弁護士、公認会計士、官公庁、民間大手など、錚々たるところに就職していた。ゼミの特徴としては、勉強好きで、他のゼミに比べてアカデミア志望(大学院進学)の学生が多かったように思う。

今では私もゼミ生を取る立場になったが、私自身も岩井流を踏襲し、学生には好きなことを原稿用紙10枚以内で書いてもらうようにしている。ただし、私は書類だけではよく分からないので、面接も行っている。

しかし、少数ながら留年者が出てしまったりもするので、当然ながら、面接をしている私の目は、面接をしない岩井先生よりも節穴なのである。

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